エチオピア(22)アリ族村にて「ライフシェア」を考える大晦日の夜
現在世界一周をしております私は、エチオピア南部、ジンカという町におります。本日の投稿は、昨日の続き。独自のカレンダーを持つエチオピアで、大みそかにあたる本日は、週に一度のバッグなマーケットの開催日。その様子と、待ちに待ったアリ族村ホームステイの様子をお届けいたします。
【現在地】ジンカ(エチオピア)
Jinka(Ethiopia)
【気温】25度(昼)
【天気】晴れ
【通貨】1ビル(ブル)=約5円
オモバレー北部に暮らす「アリ族」について
オモバレーに暮らす少数民族の中でもっとも人口が多いのがアリ族。彼らの衣服や髪型には、今まで見てきた他の民族さんのようなユニークな特徴はなく、普通にTシャツ×スカートです。
では、アリ族の特徴は何かというと、それは、クリエイティブ。日常生活に欠かせない様々な道具や家具、食べ物や飲み物を作ることに長けているのです。
そんなわけで、彼らは現在もほぼ自給自足の生活をしています。
「ものづくり」というものに心惹かれる私は、彼らの生活、そしてその仕事ぶりを見て、なんならそのクリエイティブ的なことにチャレンジしてみたく、アリ族さんのお宅に1泊ほどホームステイをさせていただくことにしておりました。
先日は、ハマル族さんのお宅に泊まらせていただきまして、それはとても素晴らしい経験でした。投稿はこちら。
今回もまた楽しい何かが待っているといいなあ。
ガイド兼コーディネーターは、おなじみアスマモさん。オモバレーに来てからいろいろお世話になっています。
彼への支払いは、基本1日35ドル。この金額は、エチオピアのガイド料にしてはかなり高額なのですが、それでも、なかなかできない経験を私にもたらしてくださるので、今回もお願いすることにしたのです。
アリ族の村には彼の叔父にあたる人が住んでいるらしく、本日私はそこにお世話になる予定。
ん??
でも先日、いっしょにビーズのブレスレットを作った叔母のガロさんはハマル族(投稿はこちら)。で、お母さんはドルゼ族っておっしゃってませんでしたっけ? なんかもう民族いろいろで、私もよくわかんないんですけど、別の民族同士で結婚できるんですか??
私のこの質問にガイドのアスマモさんはこう答えます。
「現在は、同じ民族同士の結婚が主流だよ。ハマル族の女性はハマル族の男性と結婚する。
でも、昔はキッドナップ(つまり誘拐)という手段もけっこうあったんだ。僕の母親はもともとドルゼ族で、ハマル族の父が誘拐し、結婚。でも今は離婚して、母親はドルゼ族の村で暮らしている」。複雑な家庭の事情。
昔といっても2、30年前なのでそこまで古い話ではありません。
川で水浴び中の、他民族の女性をさらってきて結婚。そんなことして、女性は同意するもんか!? と疑問に思いますが、後々、男性側の父親や村の偉い人が女性の実家に出向いてネゴシエイトするそうです。
攫っといてネゴシエイトもくそもないだろとは思いますが、昔はわりとこのパターンの結婚もアリだったようで…。
誘拐から始まる結婚とは、果たしてどのようなものなのでしょう。想像もつきません。
アニマルマーケットにてお買い物
それでは昨日の続きから。(昨日の投稿はこちら)
そう、アニマルマーケットに到着したあたりで、焦らすように投稿を締めくくったわけですが。
昨日も書きましたが、念のためもう一度言っとくと、この日はエチオピアの大晦日。我々のカレンダーとは違う独自のカレンダーを採用しているエチオピア。西暦2016年9月10日は、エチオピア暦2008年8月31日。そして翌9月1日(エチオピア暦)がお正月です。西暦で言うと9月11日です。
そんな大切な日にあつかましくもホームステイさせていただこうというわけですから、手土産のひとつでもお持ちしたいな、と。
大晦日の夜にはごちそうを作り、家族みんなでわいわいといっしょに食べるのがエチオピアスタイル。そんなとき、もっとも喜ばれるものと言ったら、それはやっぱりなんと言っても、
肉。
普段は炭水化物多めの食生活をしていらっしゃいますから、そこに天下のタンパク質がぶっ込まれると、それはみなさん大喜びなわけです。我々にしたって、焼肉とか、テンション上がりますもんね。
というわけで、やってきました。普段とは桁違いに盛り上がる大晦日のアニマルマーケット。
周囲の村々から、マーケットで売るための動物を連れた人が続々と到着しています。
このブログを参考にしてこの先、じゃあ私もアニマル、買ってみようかな。なんて人は現れないと思いますが、一応この町での相場の金額を記します。
牛一頭12,000ビル(60,000円)前後。ヤギ1頭1,000ビル(5,000円)前後。羊一頭800ビル(4,000円)前後。サイズによって変わります。もちろん大きいほど高い。これが高いのか、安いのか、よくわかりませんね。
前回ハマル族さんのお宅にホームステイさせていただいた際には、ホームステイ先で飼育していらっしゃるヤギを購入しました。しかし、アリ族さんは、牧畜を生業にしているわけではありませんので、今回はマーケットで交渉してアニマルを買わなければなりません。
前回はヤギでしたが、今回は予算の都合上、羊に決定。
恐る恐るマーケットに入っていき、羊を物色。アスマモさんが「どれがいいと思う?? 」と聞いてきますが、正直、何を基準に選べば良いのかよくわからない。
私、羊を一頭買いするの初めてですもの。
とりあえず、何人かの羊のオーナーに値段を訪ね、700ビルとか800ビルとか900ビルとか言われながらぐるっと一周してみました。
そうして、悩んだ結果、最終的に選んだ羊さんが、こちら。
白と茶色の毛が混じったなんとも愛らしい彼。
800ビル(約4,000円)。ガイドのアスマモさんと折半で、1人400ビル(約2,000円)。
お散歩させてるみたいに、紐を引いて歩くんですけど、羊ね、かわいいんですよ。
私の浮かない顔。
途中でコーヒー屋さんに寄ってベンチに座っていると…
「あのー、この羊、食べるのやめて、飼ってみるとか…」
なんてセリフが喉まで出かかっていましたが、アリ族には、ミルクを出さないオスの羊をペットとして飼う習慣はもちろんなく、言い方あれですけど、なんの生産性もないオスの羊をただただ愛でるためだけに飼育する生活の余裕もありません。
ジンカの町から本日お世話になるアリ族の村までは約20km。公共のバスがあるんだかないんだかわかりませんが、ここは便利なバイクタクシー利用で。1人片道30ビル(150円)。羊を運ぶのを手伝ってくれた地元の人30ビル(約150円)+羊チャージ10ビル(約50円)。
アリ族村に着くと、徒歩にてホームステイ先のおうちを目指します。
羊といっしょに。
お子様たちが荷物を持つのを手伝ってくれ、
さあ到着しましたよー!!
アリ族のみなさんと羊をめぐるもろもろのできごと
アリ族は、オモバレーに暮らす少数民族の中で最も人口が多いと最初に書きましたが、
あれだね。子供が多いね。
アスマモさん曰く「彼らは家族計画というものをしないんだ」。なるほど。
最初は見慣れぬ東アジア人を遠巻きに眺めているだけの子供達でしたが、カメラを向けると大はしゃぎ。すぐに元気いっぱい撮影大会。
村の自給自足体験は明日にまわして、本日は、羊を使ったクッキングに挑戦!!
アリ族では、女性は食用の家畜を殺してはいけないそうで、ここからは男性の仕事。
肉は食べるくせに殺すのはかわいそうとか、そんなこと言うつもりはないんですけど、いっしょに町からやってきて、さっきまで頭撫でたり、草を食べさたりしちゃってましたから、これはなんというか、うーん。
悲しい。
こういった感情を持つのは、日本人、というか私特有のものなんでしょうか。
まわりのみなさん、ガイドのアスマモさんも、大人たちも子供たちも、とくになにか気持ちが動いているようなそぶりは一切なく。
嫌がる羊がつれてこられ、頸動脈を切られ、血が飛び散って、身体が痙攣し、そして動かなくなっても、なんというか、みなさん普通。
子供たちは興味津々にその周りに集まって笑いながらじゃれ合っていますし、アスマモさんなんて、そんな羊とうれしそうに記念撮影をしています。
さすがにそんな気にはならず、ファミリーのお父さんによって皮をはがれどんどん小さく解体されていく羊の様子を、どちらかというと暗い気持ちで見つめる私。
彼らが冷たいとかひどいとか言いたいわけではなくって、甘いのは私。一部のベジタリアンの方々を除いて、私たちは生き物を殺して食べていかないと、生きていけない。ここにいる人々は、家畜を殺し、それが皿にならぶまでを幼い頃から見ていて、そのことをしっかり受け止めている。
日本では、丸ごと全部見ないで済むようにしてあるから、ある日こうして目の前に突きつけられると、悲しいだとか寂しいだとか、気分が晴れないだとか、
てんで的外れな感情が湧いてきちゃうんだろうなあ。
言えることはひとつ。
食べ物はありがたい。ご飯を残してはいけません。
お得意のライフシェアと理解できること
こうして解体された羊は、玉ねぎやグリーンペッパーといっしょに大きなフライパンのような鍋で炒められ、インジェラとともに食卓に並びます。「卓」ないんですけどね。
野菜を切るのは女性たちの仕事。
私も少し手伝ったんですよ!!
先日ホームステイしたハマル族は、肉を刻んだりせず、大腿骨丸ごと直火焼きというワイルドな調理方法でしたが、アリ族は、しっかり料理をするんですねえ。
周囲は暗いので、どのパーツの肉を使っているのかよくわかりませんが、料理が完成。
インジェラの上に豪快に乗せます。
すると、どこからともなく、たくさんの人が現れ、用意されたベンチに腰掛けました。20人くらいいたんじゃないかなあ。
見ていると、アリ族ファミリーのお母さんが、出来たばかりの料理を、彼らのもとに運んでいます。
え、出来たばかりの料理、この人たちが先に食べるの?? っていうか、この人たち誰!?
ガイドのアスマモさんに話を聞くと、彼らはこの家の周りに住む貧しい人々。大晦日なのに、食べ物がなく、そんな人々をまねいて、食事を分け与えているんだそうで。
得意のライフシェアですか。
エチオピアで接した方々がおっしゃる「ライフシェア」という考え方。食べ物も飲み物も、タバコも服も寝る場所も、時にはお金だってみんなで分けましょうね。持たざる人がいたならば、そこは持っている人が分けてあげましょうね。というエチオピアンカルチャーだそうですが。今まで私のものは私のもの、あなたのものはあなたのもの、てな感じで生きてきた私としては、なかなかに理解しがたい文化ではあります。
ケチで心の狭い、かつ腹ペコの私は、どんどん減っていく料理を見ながら、
「えー…せっかく羊買ってきて、みんなで協力して料理したのに、よその人にあげちゃうのー!? 私の分は?? 私もお腹空いてるんですけどー」
と、非常にいじきたない感情を抱きました。それを察したのかどうかわかりませんが、アスマモさんが、mayumiもあそこに混ざって食べておいで!! とおっしゃいます。
いいの!? 私も食べていいの!?
喜び勇んで輪の中に入り、肉に群がる人々の隙間に滑り込み必死で頬張ったそれは…
わあーぐにゃぐにゃするぅ…
半生の羊の内臓部分でした。
全然噛み切れなくて羊の胃だか腸だかをもぐもぐし続けている私に、アスマモさんがひそひそ声で耳打ち。
「僕たちや家族が食べる用に、ちゃんと美味しい肉の部分は別に残してあるからね」
あーはいはいなるほどねー。そういうことでしたか。人々に振る舞っていたのは、メインではないパーツだったんですね。
ケチで心も狭く、独占欲だって強い私には、エチオピアの多くの方々が言う、何から何までライフシェア、は正直言って理解不能です。しかし、
分け与えるのは内臓部分、自分が食べるのはちゃんとした肉の部分。
このほうがリアルで何倍も理解できるんですねえ。
ライフシェアにあぐらをかいて、人からもらうのを待っているだけでは、所詮手に入るのはぐにゃぐにゃしたあまり美味しいとは言えない内臓部分。ほんとうに美味しい肉、つまり、ほんとうに価値のあるものは、やはり自分で動いた者にしか手に入れることはできないんじゃないかなあ。
そのほうが理に適っている気がするし、そうあってもらったほうが救われる。
このあと、私には強すぎてとても飲めないローカル酒が振る舞われ、
たくさんの人々が陽気なアマリックミュージックに合わせて歌い踊る賑やかな夜。
みなさんほどよく酔いがまわり、羊の内臓withインジェラが綺麗に片付くと、宴もたけなわ。
ご近所さんたちは、私やアスマモさん、ファミリーのお父さんに順番に握手を求め、口々に「ブレスユー、ブレスユー」と言って帰って行きました。一年を締めくくる大切なこの日に、太っ腹にも羊をシェアした私たちの新しい年が素晴らしいものになるように、神のご加護がありますようにと祈っていただいて。
それから、ちゃんと我々のために残しておいた羊の肉の部分を焼いてもらい、
インジェラとともに食べ、私のお腹も満たされました。
何の予備知識もなく飛び込んだアリ族村での大晦日でしたが、私の今までの人生にない、とてもエキサイティングな1日でした。まったく違うカルチャーにどっぷりつかり、ちょっと疲れもしましたので、本日はゆっくり休みたいと思います。こちらのベッドで。
どう見ても普通のブルーシートですけど、地面に直接よりはマシです。枕は、たき火に使う薪を重ねたものですけど、枕がないよりはましです。せっかくのホームレ、あ、ホームステイなんでね。最後までみなさんと同じ環境で過ごさないと意味がありません。それでは本日も最後までお付き合いくださってありがとうございました。ではまたあしたー。
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