メキシコ(18)サンクリストバル周辺村巡り。撮影厳禁の教会と民族意識について
現在世界一周! 中米周遊! なんてことを言いながらメキシコを旅している私は、サン・クリストバル・デ・ラス・カサスという町にいます。山間の小さな村ではありますが、その居心地のよさと交通の要所であることから、観光客もたくさん訪れます。町を見渡すと、地元の方々と観光客がたくさん。そしてそれに混じって、華やかな民族衣装をまとったインディヘナの方々の姿もちらほら。
【現在地】サン・クリストバル・デ・ラス・カサス(メキシコ)
San Cristóbal de las Casas(Mexico)
【気温】22度(昼)
【天気】晴れ
【通貨】1ペソ=約5円
周囲に暮らすマヤの末裔、インディヘナさんたちの暮らしとは
ここは、メキシコとグァテマラを結ぶ交通の要所であり、かわいすぎる民芸品の宝庫。そして、周囲には、今なお昔ながらの生活を守りながら暮らすマヤ民族の末裔さんたちが暮らす村があります。せっかくなので、本日はサン・クリストバル・デ・ラス・カサス周辺の村々についての情報をご紹介いたします。
インディヘナ、つまり先住民族の村巡り、なんて言うと、エチオピアでの日々を思い出してしまうわけですが。
しかし、今回はとても簡単で、コレクティーボという乗り合いバンに乗ってればあっという間に着いてしまいます。ヒッチハイクとかね、しなくても大丈夫なんです。
本日ご紹介する村は2つ。サンファン・チャムラ(San Juan Chamula)とシナカンタン(Zinacantán)。
あ、ここでインディヘナさんたちが暮らす村を訪問するにあたり、大切なことをひとつお伝えいたします。
彼らは、写真が大嫌い。
単純に、知らない人に勝手に写真を撮られるということへの不信感・嫌悪感もあると思いますが、中には写真に撮られると、魂を抜かれる的な思想をお持ちの方もいらっしゃるそう。
日本でも昔はこのように思われていましたし、イスラム教やアフリカの少数民族の方々の中にもこのような考え方がすこーし残っていたりします。
イヤだという人々に無理強いするわけにもいきませんので、写真は少なめです。あったとしても、遠ーーーくからものすごいズームにして撮ったか、小さくしか写ってない写真を切り抜いて拡大したかです。ボケていたりするのはご容赦ください。
写真撮影厳禁の教会とモコモコスカートが見られるサンファン・チャムラ
まずご紹介いたしますのは「サンファン・チャムラ」。ここは「内部写真撮影厳禁!! 」のユニークな教会がある村として有名です。
マヤやアステカ時代から続く土着の宗教に、あとから侵攻してきたスペイン人が持ち込んだカトリックが融合して出来上がったこの土地ならではの独特の宗教スタイル。それが今なお受け継がれているそう。
ここに行くにあたり、インターネットで情報収集してみたのですが、教会内部撮影禁止ゆえ、みなさん文章を使って巧みに説明してくださっています。しかし、無駄に想像力豊かなうえに、「宗教」に関してうとい私ですから、
あやしげな呪術、祈祷術が行われる秘密の教会、なんていう大変におどろおどろしい場所を想像して出向いてしまいました。
こちらがその教会です。サン・ファン・バウティスタ教会(San Juan Bautista)。
コレクティーボを降りてすぐの場所に観光案内所があり、そこで事前に入場料を払いチケットをゲットする必要があります。25ペソ(約125円)。こちらがチケット。
WARNING(警告)
It is forbidden to take photos inside of the church it is also forbidden to take photos during any rituals as well as from officials wearing ritual costumes.
(教会内部の撮影を禁止します。また、任意の儀式の間だけでなく、儀式の衣装を身に着けている職員の写真を撮ることも禁止します)
Those tourist who do not respect these rules well be punished.
(これらのルールを尊重しない観光客は罰せられます)
教会の入口にはかわいらしいペイントが施されています。
外から見るとかわいいのに、その内部にはいったいどんなディープな世界が広がっているのでしょうか…。
さあそれでは、マヤの神秘、土着の宗教とキリスト教が融合した禁断の教会内部へ潜入です。
なんて書くと、怪しさが増しますが、意外とそんなことなくって…。
入口を入ると、まず目につくのが、床に敷き詰められた松の葉っぱ。床は白い光沢のある石のタイルですから、そこに葉っぱを敷くと、これはとてもすべりやすい状態になります。ご注意ください。
教会内部というと、左右対象に並んだ長椅子があるのが定番だと思います。ほら、結婚式の挙式なんかで、長椅子の間の通路を新婦とそのお父さんが歩いてくるじゃないですか。
ところがこの教会の中にはその椅子がひとつもなく、ただの広い空間。
壁は白、ライトなどはないのですが、床の石も白ですし、両サイドに大きな窓が配置してあり、外からの光もしっかり入ってきます。
なんだか思ったより明るい雰囲気。
そしてさらに内部を明るく照らすのが、無数のろうそくの光。教会の真ん中に長椅子はありませんが、壁に沿ってテーブルが並べられており、その上と正面の祭壇に、数えきれないくらいの透明なグラスの中に入ったキャンドルが並んでいます。そこかしこでチラチラと揺れるオレンジ色の光はなんだか心安らぐんですねえ
内部では、松やに(コパル)を使ったお香がたかれておりまして、それとろうそくの香りがまざりあった匂いがほんのりします。
コパル(コパールともいう)は、マヤやアステカの時代から、宗教的儀式や結婚式などの神聖な式典で焚かれる香として用いられているそう。そういえば、先日体験した“テマスカル”というメキシカンリラクゼーションでも、この香りが使われておりました。ついでに言うと、アフリカにあるエチオピアという国の“コーヒーセレモニー”という習慣でもこの香りが使われていたんですねえ。
教会の両サイドには、装飾的な木製のガラスだなが隙間なく並べられていて、その中には祭司さんでしょうか、偉い人っぽい方々の像が入っています。なんというか、蝋人形みたいな感じの像で、妙にリアル。これが左右それぞれ20体ずつくらいずらーっと並んでいます。
そして、正面の祭壇にも、高い位置に3体の人形が。真ん中が、この教会の名前でもある「バウティスタ」さん。右が「メノール」さんで、左がおそらく十字架にはりつけにされたキリスト。
祭壇のまわりにはたくさんの白いお花が飾られているのですが、それがほとんど菊の花なんですねえ。床にも、ところどころ菊の花びらが散らばっています。
教会で祈る人々は、直接床に座り込んだりひざまずいたりしています。
そして人々が唱えていらっしゃるなんらかの言葉。ちょっと私にはわからないのですが、すごく小さな声でなにかしら唱えていらっしゃいます。
人々の前には、ろうそくが20~30本立てられています。これはグラスに入ったキャンドルではなく、普通のろうそくですね。それから、死んだ鶏、あとは炭酸飲料のボトルもちらほら。
死んだ鶏は生贄用。そしてこの炭酸飲料ですが、炭酸飲料は聖なる水のようなもので悪い気を取り除いてくれるとか、ゲップをすることで悪いものを体の外に出すとか、そんな効果があると信じられているそうです。
しばらく教会内で、祈る人々の様子を眺めておりましたが、何も驚くようなことは起こりませんでした。
観光地化されて、人々が昔ながらの方法で祈る機会が減ってしまって、ディープな感じが薄れてしまったのか、私が行ったのがたまたまそういうタイミングだったのかわかりませんが、ただ、純粋なキリスト教(カトリック)とは違う、独自の宗教を持つ人々の敬虔な祈りの場がそこにあるのみ。
宗教のことはよくわかりませんが、もともと信じていたものをあとから無理やり変えさせようとしたってそれは無理な話で、表面上従ったように見えても、実際は変えたくないに決まっています。
そうした先住民の方々のプライドというか信心深さを知るためにもぜひここを訪れてみる価値があるんじゃないかなあ。
ちなみに、この村は、サン・クリストバル・デ・ラス・カサスから近く手軽に行けることもあり毎日たくさんの観光客が訪れます。ツアーなんかも催行されておりますので、昔に比べると人々はぐっと観光客慣れしていらっしゃるかと。
私が行ったのは平日でしたが、毎週日曜日には、村の中心に大きな市が立つそうですので、それに合わせて行ってみるともっと活気のある様子を見ることができると思います。
平日でも、村の中心の教会から続く道には、たくさんのお土産屋さんが並び、周辺の地域で作られたものはもちろん、オアハカでよく見かけた刺繍のブラウスや、はたまたお隣ボリビアのものだったような…? と思われる雑貨も見かけました。
お値段はサン・クリストバル・デ・ラス・カサスで買うよりも少し安く、また、ここでしか見かけないデザインもありましたのでショッピングをするのもおすすめ。
お店の女性は民族衣装のウールのスカートをはいていらっしゃいました。
たまにお店の前でお裁縫をしていらっしゃる女性をみかけます。
■サン・クリストバル・デ・ラス・カサスからサンファン・チャムラへの行き方
【場所】サンファン・チャムラ(San Juan Chamula)
【サン・クリストバル・デ・ラス・カサスのバスターミナル】
手作り感あふれる看板が目印です。
【料金】コレクティーボ(乗り合いバン)で片道15ペソ(約75円)
【所要時間】約15分
■ゴージャスなお花の刺繍の民族衣装を見られるシナカンタン
続いてご紹介するのは「シナカンタン」という村。サンファンチャムラからタクシーで約10分。タクシー料金は60ペソ(約300円)でした。最初80ペソと言われましたが、高いなあ高いなあとブツブツ言っていたら60ペソにしてくださいましたので、交渉可能です。
この村にも実は、内部写真撮影厳禁の教会があります。それがこちら。
さあ内部の様子はと言いますと…
こちらの内部には、礼拝用の長椅子がありまして、人々はそこに座ってお祈りします。白いお花で統一されていたサンファン・チャムラの教会とは違い、こちらに供えられているお花はとてもカラフル。花の量がかなり多いです。
私が行ったのは平日のお昼時で、祈っていらっしゃる地元の方々はほとんどいなくって、実際どのような感じなのかわかりませんでした。しかし、この教会もまた、土着の宗教とカトリックが混ざった独特の信仰スタイルだそうですので、ご興味のある方はぜひどうぞー。
教会を見た後は、村を歩いてみます。人はそう多くありませんが、シナカンタンの一番の見どころは普通の村の人々の姿。
シナカンタン村の人々は、普段からそれはそれは美しい民族衣装を着て生活なさっているのです。
その姿がこちら。
ピンク・パープル系の豪華絢爛なお花をモチーフにした刺繍が特徴的で、ブラウスやショール、スカートにもあしらわれています。“素朴”という感じではなく、とてもゴージャスなお花です。お子様もしっかりと民族衣装。
全身をこのような華やかな衣装でまとめた女性たちはまるで歩く芸術品。
この刺繍がすべて手作業だというのですから驚きです。
それから男性もこのような民族衣装のウイピルを着ていらっしゃることにも驚きました。
日本にも着物という素敵な民族衣装がありますが、それを普段着にしている人はそう多くありません。しかし、この村では、観応客用ではなく、本当に普通に民族衣装が着られているんだなあと思うと、なんだか感慨深いです。
それから、もう一つ、見逃せないモチーフが素朴なお花を用いたデザイン。
写真右の豪華なデザインとは対照的に、温かみのあるかわいらしいタッチのお花もまたこの村の特徴的なデザイン。
こちらは織りで表現されておりまして、シナカンタンは刺繍とともに織物も盛んなんですねえ。ここのデザインは動物やお花など、生活のそばにある身近な自然をモチーフにしているものが多く、とても親しみがわきます。
村ではお土産屋さんの前などで「腰織」という伝統的な手法で織物を作っていらっしゃる女性の姿を見ることができます。この村もまた写真を苦手とする人が多いと聞いていましたが、おそらくお店で品物を買ったりすると写真を撮らせてくれるんじゃないでしょうか。
それから、教会周辺には、写真撮られ待ちの女性やお子様が何人かいらっしゃり、観光客に「フォトフォト」と声をかけていました。
撮ったら撮ったで当然チップをお支払いするシステムなのでしょうが、そのなれの果てをいやというほどアフリカで目の当たりにした私は、なんとなく写真を撮らせてとお願いする気になりませんでした。
数年後とかにまたここを訪れたら、どうなっているんだろう…。少し複雑な気持ちになりながら、この村を後にしました。
■サン・クリストバル・デ・ラス・カサスからシナカンタンへの行き方
【場所】シナカンタン(Zinacantán)
【サン・クリストバル・デ・ラス・カサスのバスターミナル】
【料金】コレクティーボ(乗り合いバン)で片道15ペソ(約75円)
【所要時間】約15分
民族衣装とか民族意識とか
インディヘナのみなさんが、昔からの伝統的な手法を用いた同じデザインの民族衣装を着て生活していらっしゃるのは、代々守ってきたマヤ民族としてのアイデンテティ。そうして、それにスペインの侵略という歴史的事象が重なり、より強い民族意識、帰属意識が芽生えていったのかもしれません。
それはそれは美しい民族衣装に身を包み生活している人々は、外国人の私から見るととてもかわいくって仕方のない光景でした。しかし、それと同時に、民族衣装はよそ者とそうでないものを、しっかりと明確に分けるボーダーの役割も果たしているというのを強く実感します。
独自の文化を守りながらつつましくひっそりと暮らす地元の人々にとって、私のような興味本位の外国人は、ただの迷惑でしかないのかもしれません。とくにここメキシコに暮らす先住民の方々は「これ以上は外の人に入ってきてほしくない」という線引きが明確な気がします。
すごく魅力的である反面、旅をするものとしては、なかなかに難しいエリア。
日本にいる間は「私は日本人だ!! 」なんていう民族意識を持つことなんてなかった私ですが、海外に出て圧倒的マイノリティな環境に身を置くと、逆に少し考えるようになります。そして、独自の文化を、侵略に屈することなく、言ってみればかなり強固な姿勢で守ってきたメキシコの先住民族のみなさんを目の当たりにするとさらにいろいろと考えさせられます。
オリジナルの大切さや、多様性のすばらしさ、それを守り抜いていく大変さ。そして、あまりに画一的なものはおもしろくないぞ、と。人もものも、個性があるから興味が沸くわけで、自分にない感覚や考え方をもっていたり、まったくの未知のものに対しては、どうしてももっともっと知りたいという欲求を掻き立てられてしまうのです。
つまり、けっきょくのところ、興味本位なんですねぇ。
しかし、だからこそ、地元の方々の嫌がることはしない、まず第一に彼らの生活や思想を尊重する、そのへんをしっかりと意識しておかないといけないなあと、あらためて思いました。
それでは本日の投稿はこれにて終了。最後までお付き合いくださってありがとうございました。
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