歯切れの悪い退職の理由をオレンジ色のモンスターで例えるとしたら
あと10日したら、約5年半勤めた会社を退職する。今所属している部署には、1年半前に異動してきたのだけれど、その前にいたところ、つまり、この会社に入ってから約4年間勤務した部署の人たちが昨日送別会を開いてくれた。
先日33歳になった私だけど、驚くべきことにここでは最年少。日本における少子高齢化、過疎化の現状を見事に反映したかのようなこの部署は、近年平均年齢が少しずつ上がっていて、なんていうか、その、限界集落? みたいになってしまっている。
つまり、労働力や生活の維持管理能力が失われつつあり、共同体としての機能が限界に達しているのだ。とかいうと本当におこられると思う。っていうか、昨日すでに一回おこられている。
そんなギリギリの集落でも、私はここが大好きだった。ときどき笑えない失敗をするし、いたらない行動も多々あった。机のまわりもものすごく汚かったけど、ちゃんと私のいいところを認めてくれて、活かしてくれて、伸ばしてくれた。父、母、兄、姉のような温かい人たちのおかげで、非常にのびのびと仕事をさせてもらったと思う。
退職が決まって「4月の一ヵ月間で後任の人に引き継ぎをするように」ってことになったけど、この「引継ぎ」に関して私は正直すごく戸惑った。何をどう引き継ぐか知らないけど、私が異動してからやった仕事は、わざわざ一ヵ月かけて引き継ぐほどの内容ではない気がする。反対に、異動前の部署で学んだことや身につけた知識を誰かに引き継げって言うんなら、それはもう到底一ヵ月じゃ足りない。それだけ多くのことを経験させてもらったし、得たものは大きかった。
この部署は、「職人系おじさん」と「デザイン系若手」がタッグを組んで仕事をするという不思議な環境だった。前職(ファッション雑誌の編集者)は、まわりが若い女性ばかりだったから、「おじさん」という人種が、いわばバディになるという経験は初めてのこと。
おじさんたちとの日々はすごく新鮮だった。とにかく、安定感がすごい。ああ見えて、けっこうな修羅場をくぐってきているもんだから、ちょっとやそっとじゃ全然動じない。私は小さなことでもすぐ「やべーやべー」つって「どうしようどうしよう」って大騒ぎしてしまうけど、おじさんはやっぱそのへんどっしりと構えていて、冷静に堅実な解決策を伝授してくれた。
ある日、全社員にiPadが支給されたことがあった。ほとんどのおじさんはセキュリティ関係の設定だけはきちんとやって、すぐに机の引き出しに入れて鍵をかけてしまっていて吹いた。タブレットの意味。
でも、iPadとか使えない代わりに、いろんなことを知っていて、経験も豊富。何にでも果敢にチャレンジし、とんでもないトラブルを引っ提げて戻ってくる私を常に万全のバックアップ体制で迎え入れてくれ、数えきれないほど助けられた。あんな生き字引のような人たちにiPadなんか与えるなんて、逆に失礼だ。
それから、クリエイティブな職業らしからぬ常識力を備えている、少し年上のお兄さん・お姉さんの存在も大きかった。Macとか自在に扱えるくせに礼儀正しくてしっかりした発言してくるから困るー。私の粗相を見逃さず、まったくもって正論な指摘を容赦なくあびせられた。でも最終的にはあきれながらも優しく手を差し伸べてくれるって知ってるから、安心して無茶をすることができた。
この人たちに全力で頼り切っていた私は、自由なタイミングで何でも相談し、何でも質問した。「とりあえず、ググれよ」って言いたい場面は数え切れないほどあったと思う。でも、いつだって嫌な顔一つせず、丁寧に教えてくれたおかげで「30超えてからでも人ってこんなに成長できるんだ」と自分自身驚くぐらいに、できることがどんどん増えていった。
この先、今の会社のことを回想するときには、真っ先にここでの日々を思い浮かべると思う。本当に大好きな人たち。感謝の言葉しかありません。
「世界一周しよう」と「退職しよう」はほとんどの場合だいたい同じくらいのタイミングで決断される。どっちが先かというのは、個人差がある。ただ、どっちにしても、普通の会社員は退職しないと世界一周には行けないから、この2つは切っても切れない関係にある。
私の場合「退職しよう」が先ではなく、「世界一周しよう」がほんの少し先にきた。そして「世界一周しよう」のために仕事を辞めてもいいかなーと思えるタイミングだったから、相当悩みはしたけど、結局退職を決めて今に至る。
ではなぜ「辞めてもいいかなー」と思ったのか。それは仕事に対するモチベーションが、これ以上ないというくらいに下がり切ってしまっていたからだ。確かこの投稿でもそのように書いた記憶がある。
本来、このデリケートな部分の詳細をわざわざブログに書き残す必要なんてないんだけど、一つ心配なのは、私が非常に忘れっぽいということ。今ここで、自分の頭の中を整理し、仕事へのモチベーションが下がってしまった理由をしっかり書き残しておかなければ、あとあと後悔することになる。
今心の中にある仕事や会社に対する考えなんて、世界一周してるうちにきれいさっぱり忘れちゃうと思う。帰ってきて「あれ? なんで私仕事辞めたんだっけ? 」なんてことになる可能性は大いにあるのだ。そして、すっかり今の気持ちを忘れて、また同じようなところに就職し「あーやっちゃったねー」なんつって、転職を繰り返すのはさすがにほんとに避けたい。
そのためにも、この作業は必要なこと。
しかしながら、このブログは、旅立ち前には親しい人にはちゃんとお知らせしようと思っている。だから読んでて不快になるようなことは絶対に書きたくない。ここで誰かの悪口を述べたいとか、最後に不満を爆発させたいとか、退職を誰かのせいにしたいとか、そういうつもりは全くないのだ。
そこらへんの微妙なニュアンスを踏まえつつ、今の心境を正確に表現するのは、なかなか高度なテクニックを要する。結果、どうしても歯切れが悪くなる。これでは私の仕事に対するモチベーションが下がってしまった理由をうまく表現できる気がしないので、「オレンジ色のモンスター」に例えてみることにした。自分にだけわかる暗号のノリで。ニュアンスだけでも伝わると幸いだ。
上で紹介した、旧部署での私は、例えるなら「アグモン」。
アニメ、見たことある人がどれだけいるか分からないけど、『デジモンアドベンチャー』の世界では、一人につき一匹のパートナーデジモンがいるという設定。モンスターを誰かにもらったり、トレードしたり、みたいなことは基本的にやらない。
最初は力のない小さな存在だったアグモンも、太一というパートナーからの期待や絆に呼応して強く、大きくなっていく。
幼年期、成長期、成熟期、そして完全体、究極体へと進化していく過程、つまり成長していくうえで、パートナーとの心のつながりは欠かせないし、そこがこのアニメの最大の見どころ。
デジタルワールド(前の部署)で作り上げた人間関係は、おおげさにいうとこんな感じ。
毎回同じ人と組んでいたわけではなく、案件によってたくさんの人と関わってきたけど、それぞれと、ちゃんといい関係が築けていた。
入社して2年は契約社員、そのあと正社員になったんだけど、そんなことを気にする人は一人もおらず、歳が若いからとか女性だからとか、ちょっと変なところがあるとか、ちょっと常識がないとか、そんなことも一切関係なく、仕事のパートナーとして認めてくれていたように思う。
「他の誰でもない、お前の力が必要だ」
っていうのはさすがに言われたことはないけど、そう思ってくれていた、と信じたい。少なくとも私はそう思ってもらえるように、他の誰でもなく私にしかできないことをやろうと日々試行錯誤し、必死で頭を使い、手を動かしていた。やりがいや達成感なんてものが、すごくあった。
私の実力で言うと、さすがに究極体である「メタルグレイモン」まではいけてなかったと思うけど、「ウォーグレイモン」くらいにはなってたと思う。
そんなウォーグレイモンが、ある日異動を言い渡される。
「今日からは、マサラタウン(新しい部署)でヒトカゲとしてがんばってくださいね」
そう、ここは『ポケットモンスター(初代)』の世界。ポケモントレーナーに「おらぁ行ってこいや」っつって、モンスターボールをバーンって地面に叩きつけられたら、とりあえず戦わなきゃいけない。
「ひんし」になっても「元気のかけら」とか与えられてすぐ戦闘に連れ戻されるし、進化しようとしてもBボタンでキャンセルされるし、とにかく今までとまるで違う世界観にヒトカゲは戸惑った。
それでも、白熱したジムリーダー戦なんかはそれなりにがんばってきたから「リザードン」くらいには進化してたかなって思う。
ポケモンの世界では、人からもらったポケモンは、特定の数のジムバッジがなければ言うことを聞かなくなる。
私のトレーナー、バッジの数、全然足りてなかった。すると、どうなるか。
「リザードンは言うことをきかない」
「リザードンはひるねをはじめた」
「リザードンはなまけている」
「リザードンは訳もわからず自分を攻撃した」
「リザードンのモチベーションは大幅に下がってしまった」
「とりあえず戦闘に出てれば経験値もらえるじゃん? だから、別に環境や戦い方にはこだわりません。バトルにやりがいとか求めてないし、トレーナーが無能でも全然モチベーション維持できます」っていう働き方、私は無理だと思った。異動したおかげでそれに気付かせてもらった。むしろ感謝しているくらいだ。
完全に持論だけど、誰しも少なからず自分の能力にプライドを持って働いているわけで、「仕事へのやりがい」というのは、その能力を存分に活かせてるなーっていう瞬間に感じることができるんだと思う。
私の場合、それはモノづくりであったり、新しい企画やアイディアのこと。「他の誰でもない、自分だったからできた。自分にしかできないことをしている」そう思いながら仕事をしていきたいと痛感した。仕事にやりがいは、必要。
「自分が自分が言ってどんだけ自信家だよ」って思われるかもしれないけど、でも、「めんどくせーなー。こんなの私じゃなくてもできるなー。早く帰りたいなー」なんて鼻くそほじりながら仕事をして何が楽しいか。
そんなことを想いながら今私はリザードンとして働いているけど、私もいつかポケモントレーナーになって、たくさんのポケモンを使う側になるのかなー。そしてその先は…
あぁ憧れのポケモンマスターに…
なりたくない。私、ポケモンマスター全然憧れてない。
それでも「今の部署ではやりがいを感じられないし、ここで出世したいなんて思えない」という理由だけで会社を辞めるのはもったいないと私も思う。それだけが理由なら「異動したいです」と言えばよかっただけのこと。
それをしなかったのはもちろん、世界一周に行きたいという想いが強すぎたからで、どれだけそれらしい退職の理由を述べてみても、結局はここに行きついてしまう。この強い想いに関しては、まわりにも私本人にもどうすることもできなかったことであって「もし異動せず前の部署にそのままいたとしたら…」みたいなパラレルワールドに思いを馳せるのは、全然話が違う気がする。
そして、ついにこの日が来た。
「……おや!? mayumiの ようすが……! 」
テッテッテッテッテッテッテッテー
「おめでとう! mayumiは ティガレックスに 進化した! 」
マサラタウンにサヨナラバイバイ。私、来月から『モンスターハンター』のほうで、ティガレックスとしてやっていく。ハンターに命狙われる代わりに、誰にも使役されない弱肉強食の世界に身を置いてみる。食うか食われるか。そこで自分に何ができるか必死で考えてみる。
今までホント、いろいろお世話になりました。お腹がすいたら、ポポとか狩ってその肉食べてなんとか生き残れるようがんばってみるね。
いい歳して「仕事辞めて世界一周行ってくる」とかいう奴は、さすが考え方が甘ったれてるなーと言われればそれまでだ。理想だけじゃ飯は食えねーんですよね。
でも、とにかく私が感じていたことを今日はそのまま書いてみた。
「デジモン」と「ポケモン」と「モンハン」、全部を通ってきていらっしゃる方は、果たしてどのくらいいるんだろうか。わからない方は本当に一切ピンとこない例えだったと思うけど、少なくとも私はものすごくよく分かる。世界一周から帰った後、新しい仕事を探すタイミングで、この投稿は非常に有効活用できるに違いない。
最後に、送別会でいただいたお餞別を披露します。
■お花とSASのウォータープルーフバッグ
クラビでお安く手に入れたバッグとのクオリティの差が歴然。さすがダイビング機材の名門ブランド。薄くて軽い。これを持って海に行く日が楽しみでなりません。それから、みなさんの心のこもった寄せ書きは、PDF化してkindleに入れます。ウォータープルーフバッグ、なんか膨らんでるなーと思ったら、中からこれが出てきました。
■乾燥させたお味噌汁(1か月分)
私のことをよーーーーく分かっていらっしゃる方々なので「どうせお湯わかすやつしか持ってかないんでしょ? 」って。「とりあえずお湯があれば食べられるから」って。あと「コミュニケーションツールとしても使えるから」って。これを使って誰かと仲良くなれと。
まだ誰一人としてこのブログの存在を知らないにも関わらず、こちらの投稿を読んだかのような、的確すぎる贈り物に正直びっくりしました。
私は今まで、このブログで紹介してきたものは意地でも全部持ってってやるって決めてましたけど、ここへきて1点旅の持ち物に変更を加えます。
乾燥させたお味噌汁>寝袋
寝袋、持って行きません。そして、そのスペースに、乾燥させたお味噌汁を入れることにします。
本日も、最後まで読んでくださってありがとうございました。
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