マダガスカル(7)タクシーブルースの秩序を感じた長い長い一日
こんばんは。本日早朝5時にモロンダバを出発し、タクシーブルースで首都のアンタナナリボに戻ってまいりました。20時間のロングドライブの果てに、なんとか宿泊先のゲストハウスまでたどり着き、ホッと一息ついています。
【現在地】アンタナナリボ(マダガスカル)
Antananarivo(Madagascar)
【天候】晴れ
【気温・湿度】25度・71%(朝)、35度・37%(昼)
【為替】100マダガスカルアリアリ=約3.4円
モロンダバからアンタナナリボへ
前日に、モロンダバでバオバブを堪能した私は、次の目的地「ムルンベ」へ行きたい。あわよくばモロンダバからショートカットできるんじゃないかという浅はかな思惑も打ち破られ、結局スタート地点にとんぼ返り。アンタナナリボからあらためて「ムルンベ」を目指すことになりました。この意味の解らない遠回りルートです。
本日はその1日目。早朝5時にモロンダバのターミナルを発ったバスは、順調に走りはじめます。昨日の投稿にも書きましたが、ファーストタクシーブルースでは、お尻の痛みとの戦いに終始した苦い思い出がありますから、今回は尻元対策として、簡易的なふかふかクッションを考案しておりました。
持ってきた毛布をレジャーシートで包み、
完成した無敵のクッション。
これをお尻の下に敷けば怖いものなしです。「お手並み拝見といこうじゃねーか」とタクシーブルースに乗り込み、しばらく走ったところで気が付きます。
「おや? 今日はお尻が痛くない」
クッションの効果だけではなく、何かが前回と違います。車内を見渡してみると、あることを発見。
「え、もしかしてこれって…」
そう。座席が1列少ないのです。足を入れるスペースが、広い。新発見でしたが、ドライバーより後ろに席が5列あるものと4列のものと、2種類のタクシーブルースがあるようです。つまりこういうこと。
これはラッキー。今日は端っこの窓側をゲットできませんでしたが、足元には少しだけ、本当に少しだけ、余裕がある。
今思うと、膝を十分に伸ばせなかった前回は、足に全く重心がかからず、左右のおしりのほっぺ2点に全体重がかかっていたのだと思います。しかし今回は違います。左右のおしりのほっぺに加え、両足にもちゃんと重心がかけられる。つまり4点で体重を支えられる。
内心ガッツポーズをとりつつ、今日こそはこのタクシーブルースに勝利したな、と安堵した私は、早速眠りにつきます。何分寝ていたかわかりませんが、気づくと目の前に強敵出現。かなりぽっちゃりとした体形の女性。推定80kg。さらに腕には子供を一人かかえています。
いきなりラスボスの登場やでー。
「え、今、横4人がけのシートに4人座ってますけど…」
そういえば、誰かのブログで呼んだことがある。「何人がけとか、そんなのは問題じゃない」。そうでした。ここはマダガスカル。そして、今私が乗車しているのはタクシーブルース。4人がけの席に4人しか座っちゃいけないなんてルールはありません。
ただね、私としても、そこにスペースがあるのなら、全然座ってもらってけっこうなんですけどね。明らかに、その女の人の腰とかお尻が、空いた隙間に収まるサイズじゃないでしょうよ。人の身体的特徴をあげつらってどうこう言うのは好きではないですが、実際問題、かなり無理がある。しかし、ご本人がそんなことはいっこうにかまいませんよとばかりに無理やりお座りになるもんだから、結局隙間にねじ込むっていうよりは、普通に、私と、私の右隣に座っていた男の人の上に乗っかる感じ。
狭い、とかではなく、重い。
推定80kgですから、それぞれ40kgずつ負担していることになりますね。さらに、2歳ぐらいのお子様がセットですから、これはもう地獄絵図。
「ちょ、まっ、え、うそでしょ」
と日本語で言いながら、露骨に嫌な顔をしてみましたが、効果なし。タクシーブルースはそのまま発車してしまいました。もはやクッションの有無はどっちでもいいという状況。
とりあえずランチ
「今日はお尻じゃなくて、右太ももへのダメージがハンパねーな」と思いながら、お昼休憩に入ります。今日も安定の指さしオーダー(人が食べているものを見て「あれください」っていう頼み方)。
チキンのトマト煮込みと大量の白米。
チキンは、歯ごたえがものすごくありまして、日本で食べる、なんだかよくわかんない女性ホルモン的なものを投与されたブヨブヨの鶏肉じゃない感じが新鮮でした。
昼食後、再びあのタクシーブルースに乗るのもイヤでしたが、よく分からない村に置いていかれる方がもっとイヤだったので、しぶしぶ乗車。それから体格のよい女性が再び私の上に乗車。「つらいなー」と思いつつ窓の外を流れてゆく見慣れぬマダガスカルの景色を眺めながら思いました。
「でも、これがタクシーブルースのデフォルトなんだ…。そういえば町の入り口とかにある検問所でも、警官っぽい人何もつっこんでこないもんな」
私の膝に腰掛ける女の人、さらにその女の人の膝に腰掛ける2歳児を見ても、警官はニコニコしてるだけで、別に何も言ってきません。日本でこんな異常な乗車率がバレたら道路交通法違反でそっこー捕まります。
「乗ってる人たちも、誰一人文句を言い出さないで、おとなしく座っているなあ」
そうなのです。彼らにとってはこれが普通なわけで、いつもと変わらぬただの日常なんです。なんらつらいことなんてない。どうしてもこの状況が嫌だと言うなら、旅行者は旅行者らしく飛行機でもチャーター船でもなんでも使って好きなところに行けばいいのです。
それをわざわざローカルの人たちが利用する乗り物に乗せてもらっているのですから、当然ここの秩序に従わなければなりません。
そんなことに気づいた私は、ちょっとだけ前向きな気持ちになって、「タクシーブルースも悪くないな」なんて思い始めてきました。
とりあえずパンク(タイヤ2つ)
そんな矢先、今度は、車体の揺れが激しくなってきます。明らかにおかしい。乗客も異変に気付きはじめ、ついにタクシーブルースは停車。降りてみると、タイヤがパンク。それも、左側の前と後ろ2つもです。
あーあ、どうすんだろ、と思っていたら、ほら。ドライバーの男の人が自分でタイヤを交換しています。
車の前方に足が見えますかね。最初この出来事を「ついにパンクしちゃったよ、これだからタクシーブルースは」みたいな風に残念な感じに切り取って紹介しようと思っていたのですが、それはやめました。
やたら楽しそうで、誇らしげな彼をご覧ください。
なぜタイヤ交換の写真を撮られているのにそんなに満面の笑みでピースサインを繰り出せるのか。この姿に感銘を受けた私は、彼の雄姿をたたえることにしました。
前のタイヤも後ろのタイヤも自力で交換した彼らは、デキる人やでー。
そういえば、朝暗いうちに発車したからよく見えなかったけど、今日のタクシーブルースは真っ赤な「スプリンター号」。私はこの車体がなかなかかっこよくて気に入りました。
さらなる試練ですけどこれもまたデフォルト
無事タイヤ交換も終わり、順調に再スタートをきったスプリンター号。しかしそれから数時間後、こんどは「ヒューン…」という残念な音とともに、エンジンが止まってしまいました。
みんな車から降りて「あーあ、もうこれは詰んだな」なんて思っていたら、ほら。
こういう写真どっかでみたことあるやつー。「タクシーブルース 故障」とかでググったら無数に出てくるやつー。
でもさ、みんなゲラゲラ笑ってるんですよね。そういえば、マダガスカルの人は良く笑う。このひとたち、同じマダガスカル人とはいえ、たまたま今日同じタクシーブルースに乗り合わせただけでしょ? なのに、みんなして楽しそうに車体を押して、方向を変えて、うまく行ったら歓声あげちゃたりして。こんなこと日常茶飯事なんでしょうね。
置かれた状況は、すごく悪いですけど、この楽し気な感じは悪くないです。
それからしばらくして、ドライバーが小さなタンクを持って、ヒッチハイクで近くの町まで行きエンジンオイル的なものをもらってきた様子。それを注入したら、スプリンター号は見事復活。
そうしてしばらく走り、外もすっかり暗くなったころ、見覚えのある町に到着します。首都アンタナナリボにほど近い町「アンツィラベ」。ここまでくればあと少し(といってもあと4時間くらい)。
「よーし、もうひと頑張り」なんて意気込む私に、となりの巨漢女性が片言の英語で教えてくれます。「ここが終点よ」。
「え、私それ聞いてない」
でもそうなんですって。スプリンター号、首都アンタナナリボまでは行かないんですってよ。えー、じゃあ最初からそう言ってよー。言葉分かんないんで、ちゃんと言ったのかもしれませんけど、はなっから、最終目的地まで行かないタクシーブルースに乗せられちゃってたってことじゃないですかー。やだー。
ここで、騒いでもどうしようもないので、アンタナナリボまで行くタクシーブルースに乗り換え、再び北上。もうどうとでもなれと思いつつ眠りにつき、起きるとそこは、アンタナナリボのタクシーブルースターミナルでした。
終わりよければすべてよし
時間は深夜。あたりは真っ暗で、車内にどれだけの人がいるかも分かりません。目を凝らして見てみると、どうやらみなさん車内で夜を明かし、朝になったら各自帰宅するようで、毛布なんか持ち出してシートを倒して寝る体勢に。やだー、私ゲストハウスに戻りたいー。ベッドで寝たいー。悲しい気持ちで窓を開けてタバコを吸っていると、暗闇から現地の男の人たちが話しかけてきます。
でもフランス語で、何言ってるか分かんない。もうこんな時間にタクシーなんて走ってないだろうな、と思いつつ、ためしに「タクシー、ナラケル(たぶん駅周辺エリアのことで、私のゲストハウスから徒歩圏内)」と言ってみます。なんとなく意味が分ったような分かってないような感じなので、すかさずリピート。
「ナラケル、タクシー、ナラケル、タクシー、タクシー…」
それを聞いた人々が口々に何かを言って、なぜか車内で巻き起こる笑い。なにがおかしいかもわかんない(涙目)。
すると、ドライバーが、エンジンをかけました。「どこいくんだろう」と思っていると、なんと、ナラケルに行く道を通っている。
「うそ、もしかして…」
そうなのです。謎の特別待遇で、タクシーブルースが、私をゲストハウスまで送り届けてくれたのです。「ナラケル、タクシー」を連呼する、右も左も分からない気の毒な東アジア人を見て不憫に思ったのでしょうか。やばい、超優しいじゃん。
ゲストハウスのスタッフは運よくまだ起きていて、建物には明かりがついていました。大量の荷物を持ってタクシーブルースを降りる私にドライバーが手を出してきます。あ、握手とか? 感動の別れ的なやつね。と思いきや、
「13,000アリアリ」
だよね。
タダとかないよね。でもまあ、これタクシー代と同じくらいなんで、全然お支払いさせていただきます。送ってもらえただけありがたい。ベッドで寝られるだけありがたい。
本当に長い長い1日でした。
さすがに、明日またすぐ移動は無理がありますので、一日ゆっくり英気を養って、あさって移動を開始しようかなー。
本日も最後までお付き合いいただきありがとうございます。
コメントを残す