マダガスカル(10)恐怖のタクシーブルース「折れる鉄骨、折れない心」
本日はマダガスカルの「トゥリアーラ」という町から、さらなる田舎「モロンベ(ムルンベとも言う)」というところに移動してまいりました。とりあえず、こうしてブログを更新できているわけですから、タイトルで多少煽りはしたものの、しっかり生きていますからご心配なく。何をしに「モロンベ」に来たかというのは、とりあえず本日の時点では「私がマダガスカルで一番行きたい場所だから」とだけ説明しておきましょう。
【現在地】モロンベ(マダガスカル)
Morombe(Madagascar)
【天候】晴れ
【気温・湿度】35度・49%(昼)
【為替】100マダガスカルアリアリ=約3.4円
まずは本日のタクシーブルースをご紹介します
トゥリアーラの素敵ホテル「Chez Alain」を早朝5時50分にチェックアウトし、すぐ目の前にあるタクシーブルース乗り場へ。6時が集合時間だったのですが、もう続々と荷物が積み込まれています。
本日私をモロンベまで連れて行ってくれるのは、こちらのタクシーブルース。
赤、黄色、緑のラスタカラーがかっこいい通称「ラスタ号」。
あれ、いつものとちょっと違うね…。
こちらがいままでのやつ。
そうです。トゥリアーラからモロンベへと向かうタクシーブルースはオープンエア。椅子はベンチタイプ。
ここから先は、舗装された道路がほぼない山道で、普通のタクシーブルースではとてもじゃないけど入って行けません。ですので、このようにトラックのようなしっかりとしたボディ&タイヤを備えた車種が使われています。
タクシーブルース会社の事務所に行き、昨日私にチケットを売ってくれた「ドーラ」を探します。ドーラの本名はたぶんドーラではないのですが、粋で男気溢れる対応が、まるで『天空の城ラピュタ』に出てくるドーラのようだったため、私が勝手に名付けました。どうしても気になる方は、昨日の投稿をご覧ください。
ものの数分で私の心を虜にした、タクシーブルース会社の元締め「ドーラ」は、朝早すぎてまだ来ていない様子。
そのかわりにドーラが束ねるタクシーブルース会社のスタッフたちが一生懸命働いており、通称ドーラ一家のみなさんはどんどん荷物を屋根の上にアタッチしていきます。
1個ずつがかなり重いはずなのに、あんな高いところまで抱え上げて、本当にその身体能力にはびっくりさせられます。
ドーラ一家は私の姿を見つけると、口々に「マユミー! 」「マユミー!」と呼んできます。昨日一回会っただけなのに、よく私の名前を覚えたな、と思うのですが、きっとこんなマダガスカルの田舎町に一人でのこのこやってきた東アジア人がめずらしく、記憶に残ったのだと思います。
そして、もしかしたら彼らにしてみれば、初めて覚えた日本人女性の名前が「マユミ」だったのかもしれません。いたる所から聞こえる「マユミコール」。ドーラ一家は面白がって私の名前を連呼し、途中から関係ない人まで「マユミー」と叫び出す始末。
ちょ、恥ずかしいからもうやめてもらっていいですか。
「この慕われ方は、まさに『天空の城ラピュタ』でいうとシータだな」と、ファンが聞いたら怒られそうな不謹慎なことを考えつつ、だんだん名前を呼ばれすぎてリアクションを取りづらくなってきたので、近くのコーヒー屋さんでコーヒーを飲みつつドーナツをかじって出発を待つことにしました。
こんなふうに売っています。
コーヒー1杯200アリアリ(約7円)。ドーナツ1個200アリアリ(約7円)。
ドーナツを食べ終わり、こんどはタバコをすっていると、午前7時、ついにドーラのご出勤です。
「おはようございます、ドーラおばさま」
ドーラは私のことを覚えていてくれて、ドーラ一家の男性陣に、私の荷物をしっかりタクシーブルースに運び込むよう指示を出してくれました。最後までシータ扱い。ドーラは、シータに優しいのです。
それから、タクシーブルースに私がちゃんと乗り込むまでしっかり付いていてくれて、クールな微笑みで見送ってくれました。
もし、トゥリアーラに行かれる際は、ドーラのいる「SOA TRANS」でタクシーブルースの手配をするといいんじゃないですかね。
いよいよ恐怖のタクシーブルース、出発です
7時40分。ついにタクシーブルースが出発します。さあ、サクッとラピュタまで行きますか!
町を出てしばらくすると大きな川が見えてきます。
今は乾季なので、カラッカラにひからびていますが、この川はきっと雨季になるとたっぷり水をたたえることになるんだと思います。この道中で思いましたけど、雨季にトゥリアーラからモロンベまで行かれる場合は、かなり大変なことになると思います。時間も倍ぐらいかかるんじゃないかと…。それほどに、道、やばいです。
車窓から見える景色はのどかそのもの。
舗装されていない地面はガタガタで、振動はすごいですが、
私には毛布とレジャーシートで作った特製クッションがありますから無敵です。
途中立ち寄るそれぞれの村で、特産品であろういろいろなものを車窓から買うことができ、それを見るのもおもしろかったです。
私はお腹がすいたので、バナナを買ってみました。
これで1,000アリアリ(約34円)。
目的の「モロンベ」まで何時間かかるか分かっていなかったのですが、道中の村や景色に飽きることもなく、乗り心地も思ったほど悪くないし、半分を過ぎるころまでは「順調」以外のなにものでもありませんでした。
ここからが本当の恐怖のはじまり
異変に気付いたのは、たぶん午後1時ごろ。このタイプのタクシーブルースの注意点として、うとうとすると横の鉄骨に
おでことか鼻とかを容赦なくぶつけるから寝られないよっていうのが挙げられます。タクシーブルースの側面を覆う鉄骨。この鉄骨で屋根の上の超重量級の荷物たちを支えています。
そういえば、どうもさっきから顔をぶつける頻度が高い。っていうか5回くらいぶつけてからはさすがに寝ちゃダメだと思って起きてたのに、ガツンガツン当たってくる。
ねえ、なんか鉄骨がきしむ音、最初より大きくなってないですか?
ふと正面に目を向けると、目の前の鉄骨が
折れた。
え……。
ひび、入ってたもんね…。とはいえ、さすがにこんな公共交通手段で使われる乗り物ですから、そう簡単に壊れることはないでしょう。この時点では、まだそこまで焦りは感じておりません。現時点の鉄骨図解。
ところが、ふと視線を右手側にむけてみると、
おや? 右上も、鉄骨、ずれれてない? ずれてるっていうか、取れてるっていうか、折れてますね。車体の振動に合わせてグラグラしてますもん。新たな図解。
ねえ、車体が傾いたときの鉄骨の歪み方が少しおかしいんですけど。
「これはやばい」
私は悟ります。だって、よく考えたらここはマダガスカル。屋根の耐荷重限界なんて一切無視して荷物とか詰んでるに決まってる。こんなボロボロの乗り物が、100人乗っても壊れないどっかの物置みたいな高度な設計でできてるわけないし、この屋根が崩れない補償なんてどこにもない…。
「私まだ、“バルス”って言ってない…」
この期に及んでまだシータ気取りかと怒られても仕方ないんですが、とにかく、屋根が崩れるなんて想定外。滅びの呪文なんて使った覚えはないのに、こちら今まさに滅びそう。調子に乗って自分をシータになぞらえたりしたからこんなことになったんだ…。
連載開始(世界一周開始)10日でいきなり主人公が死ぬ漫画なんてありえないけど、現実には主人公補正なんて効かないんですよね。「私だけは大丈夫」なんて通用しない。それに、漫☆画太郎先生の作品だと、いきなり主人公が死んだりもするしなあ。
とりあえず、いろいろ覚悟してみた結果
鉄骨が折れたら、たぶん屋根が前方に向かって一気に崩れ落ちてくる。屋根の上の荷物は、たぶん何キロっていうより何トン…。それが脳天直撃したら、脳みそだか頸椎だか、すごく重要なパーツをやられて、たぶん即死だな…。
覚悟を決めた私は、とりあえず買って置いたお水をがぶ飲みします。トイレに行きたくなったら困るから少しずつ水分を摂ってたけど、もうそれも必要ない。屋根が崩れて死ぬんなら、せめて「喉渇いたなー」って状態ではなく、潤った状態がいい。トイレなんて知ったことか。
それから、「とっておきの時のために」と残しておいた日本から持参したマルボロライトの箱を開封してタバコを吸います。ずっと現地のクソ安くて変な味のタバコ吸ってたけど、最後になるならせめて好きな銘柄を吸おう。“とっておきの時”ってこれ完全に、今でしょ。
それから、iPhoneを取り出して、メモのところに「屋根が崩れそうなので、メッセージを残します」で始まる家族への手紙を書き、とりあえず一息つきます。
ここで、隣に座っていた現地の男の人が私の肩をたたいて、折れた鉄骨を指さしながらジェスチャーで、
見て、
鉄骨、
折れてるww
とわざわざ教えてくれ、まわりの乗客といっしょになって大爆笑しています。
知ってるよ!!!!
こっちは数十分前に気付いてて、コツコツ“その瞬間”のための準備してるっつーの。え、何これもデフォルト? そういう仕様なの? 「タイヤのパンク」「エンスト」「荷物および人間の過積載」などは確かにタクシーブルースのデフォルト仕様。それはもうここ数日の経験により、存じ上げてるんですけど、まさか「屋根が崩れる」もよくあることなんですか?
他の乗客のあまりの余裕ぶっこきっぷりに、少しだけ安心した矢先、
カラーン。
響き渡る金属の音。また、折れた。
今度は真ん中下段が無くなりました。図解。
車内から笑みがこぼれる。まだ笑ってられるのか、この人たちは。これって「タクシーブルースあるある」なのかな。「こないだまた屋根崩れちゃってさー」みたいな笑い話なの? それとも、ここで生涯を終えても、それもまた人生、みたいに達観しちゃってるんですかね。マダガスカル人の死生観に驚愕する私。ふざける子供に言いたい。
お願い、もうそこに体重かけないで。
最後の晩餐にしてはあまりに質素
そしてここでバスが停車し、お昼休憩。こちらとしては、昼休憩とかいいからさっさとムルンベに到着してほしい。
さっきから何回「maps.me(オフラインでも使える地図アプリ)」見てると思ってんだ!!
そんな私の想いを無視して、みんなタクシーブルースを降り、食堂に入って行きます。言葉が全く分からないので、ただの小休止なのかご飯を食べる時間のある休憩かの判断も付かない私を、隣の席の男の人が一緒に連れ出してくれて、自分がご飯を食べる食堂に私も同行させてくれました。
メニューもないので、「とりあえず彼と同じもので」みたいなことをなんとなく伝えると、出てきたのは鶏肉のスープ煮込み。
いやいや、全然これでもいいんですけどね。生姜の効いたスープを少しずつご飯にかけながら、スープに米を浸す感じで食べるのがマダガスカル流☆なんつってね、おいしくいただきましたよ。
ただこれが最後の晩餐って言われるとさ、ちょっとアレかなって…。
とりあえず、このマダガスカルの庶民派家庭料理を完食。お腹がいっぱいになったところで「いやだなー」と思いつつ、再びタクシーブルースに乗車します。
やっぱり「タクシーブルースあるある」じゃなかった
ムルンベに近づくにつれ、どんどん道は悪くなる一方で、車体の振動に合わせて揺れる鉄骨のきしみ音は、確実に大きくなっていきます。現在の鉄骨の図解。
鉄骨のことが気になって気になって、周囲にぽつりぽつりと見えて来たバオバブの写真を一応撮っては見るものの、かなり雑。
それより、今は鉄骨のことしか考えられません。一人おびえる私をよそに、まったく気に留めるふうでもない周りの人々。しかし、ここでまた、
カラーン。
再びの金属音。またしても主要な真ん中の鉄骨が折れて床に落下しました。
周囲の乗客から消える笑み。図解。
ほらゆったじゃん、やばいって。
正確には、フランス語しゃべれないんで、言ってませんけど。心の中では「やばい」って1000回くらい言いました。
途中で立ち寄った村の子供たち。
もうすぐ屋根が崩れるかもしれないタクシーブルースに乗る私にむかってこんな屈託のない笑顔をむけてくれて、少し気がまぎれます。
とはいえ、終始生きた心地のしない私は、再び自分の正面の鉄骨を観察。すると、
ねえ、もうここ、ちぎれかけてるんですけど。
一番左端の横に渡した鉄骨は、すでに役目をはたしていませんでした。さらに、縦の鉄骨の根元も、びっくりするぐいらグラグラ。
つまりこういうこと。
ここまでに100回くらいチェックしてきた「maps.me」を再び見ると、残りあと20km。これが舗装されたアスファルトの道路なら「時速60kmで走ればあと20分じゃん」となるわけですが、世の中そんなに甘くありません。ここはマダガスカルのド田舎の山中。あと何分、いや何時間走り続けるのか見当もつきません。周囲はすでに暗くなりかけており、出発から10時間が過ぎようとしています。
そして、再び不吉なあの音が車内を襲います。
カラーン。
これはほんとうにやばい。右端の横の鉄骨が逝ってしまわれた。
図解。
ここまでくるとさすがに乗客たちも黙っていません。口々に運転席のドライバーにこの事態をどうにかしろと訴えますが、運転手は聴く耳持たない。屋根が崩れても助かる運転席は、この世で一番勝ち組の席だということを思い知りました。
途中までとは一転、押し黙った乗客を乗せて暗闇の中進むタクシーブルース。
いったい今どの鉄骨が機能していて屋根を支えているのかもはや分からない状態。
ベンチ式の椅子は硬くておしりが痛い、とか、窓がないから砂埃と排気ガス直撃でつらい、とか、後ろの人が背もたれに手を置いてるから背中を付けられない、とか、前の人の荷物が私の足元まで来ていて足を伸ばせない、とか、
全部どぉぉぉでもいい。
とにかく、早く「ムルンベ」に到着してください。もう祈ることしかできない我々乗客は、車体が右へ左へ揺れるたびに、どう見ても異常な傾き方をする鉄骨を凝視し続けました。
でも、なんとか生きてます…
出発から12時間。午後7時40分、タクシーブルースは無事「ムルンベ」に到着しました。私が泊まろうと思っているホテルは「ホテル バオバブ」というなんともいい感じの名前。『地球の歩き方』に地図すら載っていない小さな村の小さなホテルに向かって、安堵の気持ちいっぱいで歩を進める私なのでした。
みなさま、オープンエアタイプのタクシーブルースに乗る際は、まず、なによりも先に、鉄骨の状態を確認してから乗車するようにしてください。もし危ないなと判断したら、「乗らない」という選択もありだと思います。これは本当に大切なことなので、もしマダガスカルに行かれる方は、心のどこかにとどめておいてくださいね。
マダガスカルでの移動情報の詳細はこちらです。
最後になりましたが、「結局パズー出てこなかったよね。シータ、ドーラのサポートだけでラピュタに着いちゃったじゃん」とかそういう感想は、ぐっとこらえて飲み込んでください。こっちのシータは、ハートが強いから大丈夫。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
コメント4件
ちょwww
マダガスカル〜毎日毎日濃い〜っす!w
ほんとにご無事でなによりですよ!
日本なら普通にニュース沙汰ですやんwww
濃すぎるタクシーブルース移動と共に
ブログランキングも上位へ
じわりじわりと なんだか
自分のことのように嬉しくて:D
まなみさん、タクシーブルース用の
座布団は準備編に登場していた
チャラい寝袋は代用不可でしょうか??
マダガスカルの人から見たら
やっぱり大袈裟すぎるのかな
いつも楽しく拝見しています!マダガスカルサバイバルですね。私も現在世界一周中でmayumiさんより少し早めの4/1から始めました。今は南米のアルゼンチンです!アフリカは8月に行く予定なのでmayumiさんのブログ大変参考になります!笑